マトハヅレでは、「長い歳月と生活における種々多様な環境のもとで、誰しもの指に自然と馴染み、親しみをおぼえてもらえるような結婚指輪の基本形をつくりたい。」という考えから、無用な装飾を排して、美しく、着け心地のよい指輪のかたちを生むべく頭をひねりました。


お渡しから時間が経ったあとでも修理や調整がしやすいこと。ロウ付け箇所の面積を極力小さくして、貴金属としての純度を保つこと。ゆがみや割れがすぐに発生しうる極度に華奢なつくり、あるいは指間に摩擦や圧迫を感じるほどの重厚なつくりを避けること。そのような私たちが考えうる危惧や着用時の弊害を想定して、その諸問題によき解答を与えられる仕様で設計することと、指輪そのものの姿もまた美しいと感じられるような、幅や厚み、表面の質感との和合を求めることに、多くの思索と実験の時間を投入しました。


素材は、肌なじみがよく、自然金の色合いに近いK18YGと、高純度で頑強なPt950の2種のみの使用に限定しています。（はじめからおつくりする場合は除きます。）自社一貫製造と、出来る限り原始的な方法でのものづくりを堅持したいという思いから、直に金属を加工する彫金という技術を主たる工法として、ひとつひとつ堅実に仕立てていきます。

大きく無骨に鑢目を残したテクスチャは、手でひと削りひと削り、鈍く光る面取りを荒々しく丁寧に施します（typeNⅡ・S）。着け心地を重視した内外比率の異なる両甲丸の丸みは、鑢で少しづつ削りながら成形しました。それにより不愛想で単調なものではなく、手によって生み出されるやわらかい曲線が実現できるものと考えました。
この工程を経て削り出された銀合金がこのモデルの原型となっています（typeL I・L IIのPt950のみ鋳造しています）。

表裏で異種金属を合わせるモデルでは、一体化の為のロウによる接合をおこなわず、金属板を直に金槌で叩いて圧着するという工法を用いています（typeLⅠ・L II・D）。

これらの手仕事によってつくられた造形をもとに、6種のかたちが生み出されました。